つき合ってみると面白味がない

たしかに気取り君は、みんなか思うように自分は特別に品格のある人間だと思っている節がある。実際、彼は服でも小物でも、普通の人とは違ったもっとハイクラスのものを身につけていないと気がすまない。ところが彼はそんなにお金持ちの息子でもないし、別にハーフでも良家の子息でもないのだが、とにかく何となく舶来風に見える。そしてお金は全て高級品に使ってしまう。

「やっぱり気取ってるだけじゃなくて要するに見栄っ張りなんだ」と身近な人は言う。好意を持つ女性も少し親しくしてみると、みんなこんなふうに感じて彼から離れていく。「一緒にいると何となく退屈して気分が乗らなくなっちゃう。見かけほど面白い人じゃないの。だってちっとも気持ちか通わないんだもの。いつもいつも計算して気取っていて絶対その態度を緩めるということはないみたい」

実は同じ印象を男性の同僚も上司も持っている。「何度か誘って一杯飲んでみたんだけど、絶対酔って取り乱したりしないし、いい調子になることもない。”アルコールで酔っぱらうなんて恥ずかしいというふうに、うちではしつけられてきましたから”と言う。だから態度振舞い、とてもさまになった飲み方をするし、やりとりもする。でも酔っぱらってハメを外すこともないから親しくならない。だから一緒につき合っても面白くない相手だね」

しかし気難しいお得意さんとの席なんかには、気取り君を一緒に行かせると最後までそういう態度でつき合ってくれるので、みんなには頼りになる人でもある。しかし誰とも本当には親しまない。

— posted by Azuma at 02:47 pm  

品がよく礼儀正しいが、気取っていて傲慢

気取り君はとても礼儀正しく、品のある人物だ。起居動作も静かで、落ち着いた物腰だ。彼がその場にいると、みんなの雰囲気までちょっとハイクラスな感じになる。容姿端麗で「あの人、ハーフのあのタレントとちょっと似ている」と言う人もいる。どこかバタくさい話し方も、静かで、落ち着いていて、礼儀正しい感じがする。ほとんど感情に動かされることもない。

それだけに彼にあこがれる女性も多い。社内でもみんなが一目置く存在だ。「ああいう育ちのよい人は、どういう良家の子弟なのかな」と。みんなが思う。

現在は社内で重要な渉外の仕事に携わっているが、彼が交渉役になると、何となく会社も品位の高い会社というイメージになる。着ているものも、ギラギラしてはいないけれど。おそらく背広はダンヒルで、バッグはカルティエという雰囲気だ。きっとこのまま、一歩一歩エリートコースを歩んでいくと、みんなに思われている。しかし、その彼と身近に仕事している人たちには、外から見ているのとはだいぶ違う彼に対する評価がある。

「彼は、いくら一緒に仕事をしていても、何かよそよそしくて、他人行儀でいっこうにうちとけないんですよ。話をしても社交辞令みたいな言葉で相手をそらさないし、感情的になることはまったくない。その点ではつき合いやすいとも言えるんですけど、それ以上、親身になってくれない。いつも決まり文句みたいな言葉でしかものを言わないんです」

もう一つのみんなの感想は、どことなく傲慢で。気取り屋だということだ。つまり気取り君は、いつも気取っていて、自意識過剰だ。自分がどんなふうに振舞えばよいか、たえず計算して話をしている。

— posted by Azuma at 02:02 pm  

自分は特別な人間だと思っている

いつも自分が人からどう見られているかを意識して、気取っている人がいる。ある女性は、このタイプの男性に、「誰も見てない君」というニックネームをつけた。そんなタイプの人がいる。起居動作、態度振舞い、すべてがどこか意識された物腰である。多くの場合。これらの人々は、ハンサムだったり、かっこよいという資質がある。その資質が大いに自分の取り柄にもなり。また自己愛にもなっているので、ますます気取ることになる。

しかし、あまりにもいつも気取っているので、普通の人との情緒の通い合いや、自然な感情は麻卑して、単調なものになりがちだ。周りから見ると、あこがれる人もいるし、なかなかかっこいいなあという意味で一目置かれる面もあるのだが、近づいてみると、心の中は何か空虚で、自分のことしか考えていない、そんな性格の人だ。

そして。このタイプの人は多くの場合、心の中に自分が特別、美しい人、特別、品のいい人という自己イメージを抱いている。中には、それは特別な育ちで身についたものだという、自分の生まれや育ちについての空想を抱いていることもある。それだけに、身近な人はとてもついていけない。遠くから見ているときにはかっこいいと思ったけれども、一緒に暮らしたり、そばで仕事をしたりすると、とても鼻持ちならないし、少しも面白味がない、という意味で困った人である。

— posted by Azuma at 02:42 pm  

気取り君の空想の秘密

実は気取り君には、本人も半ばはっきりとは気づいていない、幼いときからいつも思い描いている空想がひそんでいた。その空想は、彼が学生時代に学生相談でカウンセリングを受けることになった、そのカウンセリングの中で。はっきりと思い出された。そもそも気取り君は。いつも、とても静かな態度で暮らしているだけに、みんなとワイワイやったり、急に人と近しくなったりしたときに、パニックを起こすことがある。

たとえば、気取り君は学生時代に一度調子が乱れ、すごいパニックを起こしたことがある。それは、クラブのコンパに行かなければならなかったときだった。みんなと夜中にワアワアやっていたのだが、気取り君があんまり気取っているので、先輩が憎らしくなったのか、無理にアルコールを飲ませたり、歌をうたわせたり、隠し芸をやれといってからかった。彼はその場に耐えられなくなって、気持ちが悪くなり、そのうちに心臓がドキドキして、過呼吸の発作が起こって結局、救急車で病院に担(かつ)ぎ込まれたのである。

そのときに、学生相談でしばらくカウンセリングを受けた。どうやら気取り君は、自分らしい気取った態度をとれなくなるときに、パニックが起こる。それ以来、絶対そういうふうにはなるまいと決意して、ますます気取り屋で暮らすようになった。そのカウンセリングの中で、こんなことがわかった。実は、気取り君の生まれ育ちは、そんなに上流階級の何様というような家庭ではなく、むしろ中小の会社のごく普通のサラリーマンの家庭だ。お父さんの出身大学も、いわゆる一流と言われるところではなくて、地方の小さい大学だ。会社でも出世コースに乗ることはなかった。

そんな家庭で、経済的にも貧しくて苦労もあった。しかも、お父さんは酒癖が悪く、しょっちゅう母親に暴力を振るったりして、いさかいが絶えなかった。だから、むしろ彼は「育ちがいい」とは反対の家庭環境で育ったのだ。少しカウンセリングが進んだとき、実は、気取り君は大きな空想を幼いときから抱いていることに気がついた。それは次のようなものである。

「あの親父はぼくの本当のお父さんじゃないんだ。かわいそうにお母さんは、本当は何々の宮様(華族)の家の嫡男と愛し合って、二人とも一緒に死のうかと思うほど熱烈な恋愛をしていた。だけど、あまりにも身分がちがっていたし、まだ昔だったので、周りから妨害されて、二人とも泣く泣く別れることになった。そのとき身ごもっていたのがぽくなんだ。お母さんがそのことで悲しんでいるときに、いまのお父さんかあらわれて、さかんに慰めたり、ご機嫌をとったので、ぼくのこともあって、お父さんと結婚したんだ。お父さんはそのことを知らない。自分の子どもだと思っている。きっとそうなんだ。お母さんはときどきそうじゃないかと思うようなことを、ぼくに口走ったことがある。ぼくは本当はあんな品の悪い親父の子じゃない」

たしかに彼がそう思うのも無理もない点がある。お父さんに比べると、お母さんは本当に品のいい、育ちのいい女性だ。実際にお母さんの実家はお父さんの家庭に比べると、教養度がずっと高く、母の父(祖父)は仕事で長く海外に駐在していたし。また、お母さんも何度も向こうに行っていたこともある。

「ぼくは本当はただの日本人じゃないんだ。お母さんの恋人の宮様はずっとロンドンで暮らしていた人で、その宮様と愛し合って、ぼくが生まれた。だから、ぼくに何となく英国紳士風のバタ臭い印象があるのは、ただの見かけだけの話じゃないんだ」そういう空想を、彼は抱いている。もちろん、カウンセラーから見ると、これは彼の心の中の一つの夢物語であり、実際にそうだという確証はない。

— posted by Azuma at 11:06 am  

父親との近親姦的結びつきが心の傷に

内心、このままでは一生幸せになれないと思った愛子さんは、その道の専門家にカウンセリングを受けた。その先生は、こんなふうに彼女のコンプレックスを説明してくれた。

「どうもあなたには矛盾した気持ちがあるようですねえ。幼いときからお父さんにすごくかわいがられて、いつも”パパ、パパ”と呼んでいたお父さん子だったという話ですけど、とくにパパに大事にされたい気持ちが人一倍強かったんですね。だけど、その反面、どこかでお父さんをおそれる気持ちがあったのでしょうね」

彼女自身、パパにとてもかわいがられ、ずいぶんパパに甘やかされていたと思う。ところが、それと同時に実は彼女には、パパに近づくと、とてもこわいことが起こるという記憶がある。彼女が5歳のころだった。そのころパパは彼女をとてもかわいがっていて。よく一緒に寝ていた。パパは彼女をベッドに入れて一緒に寝るのが好きだった。

ところが、そのパパが自分をかわいがろうとして、抱っこしようとしたのかどうか。愛子にはあまり記憶がはっきりしないのだが、とにかく寝ぼけていた彼女は、すごくこわい気持ちになって、突然、パパを突き飛ばしたか、ひっ掻いたかした。そうしたら、パパがすごく怒って、彼女を部屋から連れ出して。庭に放り投げた。寒い日だったと思うけど、彼女は庭をウロウロして、半ばもうろうとして、泣いていたという。

「ママはそのときどうしていたんでしょう?」

「ママも最初は寝ていて、気がつかなかったけど、私の泣き声で気がついて、もちろん庭に助けに来てくれたんです。”あなた、一体何か起こったの?”とパパに尋ねたんだけど、”いや、この子があんまり生意気だからだ”と、パパはかんかんに怒っていた」

「もしかしたら、あなたは何かとても性的な恐怖を父親に対して抱いたのではないでしょうかね」

つまり、彼女は一方ではパパにとてもかわいがられたい、愛されたい気持ちでいっぱいである。しかし、いざ親しくなると、また再びあの心の傷が繰り返されるのでは、という不安が高まる。

この愛されたい気持ちと。傷を負う不安の繰り返しが周りの人に対する彼女の魅力的な雰囲気になってあらわれるのだ。しかし、いざベッドインするというような、近い関係になりそうになると、とても深刻な拒絶的な恐怖、不安が起こってしまうのだ。彼女は、何とかこの心の中の父親との葛藤の繰り返しを卒業しなければと思う。この彼女のような性格を、W・ライヒはヒステリー性格と呼んだ。

ここで言うヒステリー性格の特徴は、人に愛されたい気持ちが人一倍強く、それだけ魅力的なのだが。同時に、愛されることに心の傷があって、この矛盾した葛藤が人との間、とくに男性との間で繰り返されることである。女性の場合、この彼女のように、父親との近親姦的な結びつきと、それによる心の傷が原因になることが多いという。

— posted by Azuma at 05:09 pm